大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)5760号 判決
一 原告の意匠権
請求原因(一)項は当事者間に争いがなく、同(二)項も被告井上スエーターとの間では争いがなく、被告日本デパートも弁論の全趣旨に照らし明らかにこれを争わないからこれを自白したものとみなす。
二 本件意匠権の侵害
請求原因(三)項も当事者間に争いがない。ただし、被告井上スエーター代表者本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したと認める乙第三号証の一ないし四によると被告井上スエーターは被告製品を自ら製造したものではなく他からこれを仕入れ被告日本デパートに卸売りしたにすぎなかつたのであつて、この点は被告井上スエーター主張のとおりであることが認められる。
そこで、次に本件意匠と被告意匠との類否について検討するに、被告意匠が本件意匠と同じ織物地に係る意匠であることは前記のとおり当事者間に争いがない(もつとも、右自白にもかかわらず、被告製品であることに争いのない検甲第一号証によると被告製品は「編物地」からなつており「織物地」からはなつていないことが一見して明らかであり、被告らの自白は、真実に反するにもかかわらず錯誤によるものとして撤回の主張がない関係にある。
したがつて、いまもし裁判所が右自白に拘束されないとすれば被告意匠は本件意匠とは別異の物品にかかるものといわなければならない―意匠法七条、同法施行規則五条の別表一類の物品の区別参照―。しかし、「織物地」と「編物地」とはふうあい、感触等の機能面で若干異なる点はあるがその用途はほとんど同じであり、生地として実質的に類似すると解される。そうすると、右自白と真実の喰い違いはいずれにしても本件類否に影響を及ぼすものではない。)。
次に両意匠が類似していることも被告らは認めて争わない。げんに両者をあらためて検討してみてもその類似性は争う余地もないと解される。すなわち、いま両者の外観を細心の注意を払つて観察すると、両者には若干の相違点を看取することができるのであるが(本件意匠における「i」が被告意匠において「<省略>」となつている点、前者における「r」が後者で「<省略>」となつている点、前者の「<省略>」が後者においては「<省略>」となつている点等)、これを普通の注意力をもつてみると両者は見分けがつかないほど似ており、前記のような相違は他人に指摘されてはじめて気がつくていどのものである。
したがつて、被告井上スエーターが被告製品を業として被告日本デパートに卸売したことおよび同被告が業としてこれを販売したことはいずれも原告の本件意匠権を侵害していたことになる。
三 被告らの過失
被告らはそれぞれ前記各侵害行為について過失があつたものと推定される(意匠法四〇条)。
四 損害
そこで、すすんで原告の蒙つた損害額について検討するため、まず、被告らが各侵害行為によつて得た利益額について考える。
(被告井上スエーター関係)
本件に顕出された全証拠によつても同被告が被告日本デパートに被告製品を売つて得た利益額は同被告の自認する九万三四〇〇円を越える額についてこれを認めるのは困難である(原告は、被告井上スエーターについては「被告製品を製造してこれを被告日本デパートに売却したこと」による損害金の支払いを請求しているのであるから、そのうち「製造」による損害は認め難いし、「売却」についても被告日本デパートに対する売却以外の売却を顧慮する必要はない。)。かえつて、被告井上スエーター代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第一号証、第一六号証、第一七号証の一、二、被告日本デパート代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる丙第一ないし第三号証の各一、二および被告両名代表者本人尋問の結果によると、被告井上スエーターは訴外ヤングモードから仕入れた被告製品のうち計一二〇着、仕入価格計金二二万九〇〇〇円分(昭和五三年二月四日長袖丸首セーター品番四一五〇仕入単価二、五〇〇円を一四着―二七着売却うち一三着はのちに返品―長袖V首セーター品番四一五四仕入単価二、〇〇〇円分を三五着につき、また三月四日に長袖V首セーター品番四一五四番仕入単価一、五〇〇円分を七一着)を被告日本デパートに計金二八万九〇〇〇円(二月四日分四九着につき卸単価三、〇〇〇円、三月四日分七一着につき同二、〇〇〇円)で売却し差引金六万円の販売利益を得たことが認められるにすぎないくらいである。
(被告日本デパート関係)
被告日本デパートについても、同被告が被告製品を売つて得た利益額は同被告の自認する二八万七〇〇〇円を超える金額を認めるに足る証拠はない。
そうすると、原告が被告井上スエーターの違法行為によつて蒙つた損害は九万三四〇〇円、被告日本デパートの違法行為によつて蒙つた損害は二八万七〇〇〇円とそれぞれ推定される(意匠法三九条一項)。
五 謝罪広告請求の当否
次に、原告の謝罪広告請求の当否について検討するに、前記認定事実および弁論の全趣旨によると、原告は世界的な高級フアツシヨン製品メーカーとしてつとに著名な業者であり、日本国内でも同様であり、かつ右著名性は本件意匠を現わした商品の優秀性が与つて力があつたこと、したがつて、被告らが前記のとおり本件意匠と類似する被告意匠に係る被告製品を販売したことは一般消費者間に原告製品との誤認混同を生じさせ、これがため原告の有する信用と名声を損う結果を生じたものと認めることができる。
しかしながら、他方、前記認定事実によると、被告らによる被告製品の販売期間、数量は極めて僅かなものであり、また、被告井上スエーターとの間で成立に争いない甲第三号証の一、二、被告日本デパートとの間で成立に争いない甲第六号証および被告各代表者本人尋問の結果によると被告らはその後この種類似商品の販売を自粛するとともに、直ちに自ら原告製品の我が国における一手輸入販売会社であるカネボウ・デイオール株式会社宛「詫び状」を発送し、その非違を詫び、遺憾の意と陳謝の意を表していること等の事実が認められ、これらの事実を彼此勘案すると、本件において、被告らに対し、損害金の賠償をさせたうえ、さらに謝罪広告までさせるのは妥当とは考えられない。原告の謝罪広告請求は失当である。
六 結論
よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、その請求の範囲で、(イ)被告らに対し連帯して損害金九万三四〇〇円とこれに対する昭和五三年一〇月一日(各訴状送達の翌日のうち遅れた被告日本デパートの分。)から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分、(ロ)被告日本デパートに対し損害金一九万三六〇〇円(同被告の負担損害金二八万七〇〇〇円から前記相被告との連帯分九万三四〇〇円を控除した額)とこれに対する前同日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却する。